松下福祉年金控訴審
大阪、大津共に受給者側敗訴

 

松下福祉年金減額事件の控訴審判決言い渡しは2006年11月28日大阪高裁で行われたが、大阪・大津の両事件とも控訴棄却となり、原告(受給者)側の全面敗訴となった。 (椋尾尚司)

平成17年(ネ)第3134号  福祉年金請求控訴事件
      
           

  本件事案の概要
被控訴人は,昭和41年,被控訴人やそのグループ会社の従業員の退職者に対し,福祉年金制度を創設した。その制度の概要は,従業員が退職した場合,その退職金の一部を被控訴人に預け,これに対し,被控訴人が,その預入額に一定の利率(給付利率) (当初は年10%)による利息相当額を付加した争額の合計額を,一定の期間にわたり,年2回に分けて,支払額が均等になるようにして,基本年金として支払い,一定期間経過後も,死亡するまでの間,一定の金額を終身年金として支払う内容である。
被控訴人は,福祉年金規程( 「本件規程」という。 )を定めて,本件の年金制度の運営を行っていたところ,本件規程には, 「将来,経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合・・・この規程の全般的な改定または廃止を行う。 」との条項( 「本件改廃規定」という。 )があった。
被控訴人は,本件改廃規定に基づき,平成14年9月支給分から給付利率を一律年2%下げる旨決定し( 「本件利率改定」という。 ),それを実行した。その結果,控訴人らに支給される年金額は,減額された。なお,控訴人らの給付利率は,退職した時期に応じて,年10%ないし年7.5%であったのが,本件利率改定により,年8%ないし5.5%となった。被控訴人は,従前,現役従業員との関係で,給付利率を改定したが,退職者すなわち既に退職金を預け入れ,年金を受給中の者との間で,給付利率を改定したのは,今回が初めてであった。

控訴人らは,大阪地方裁判所に対し,本件利率改定は,無効である旨主張して,減額された年金額の支払いを求めて,提訴したが,同裁判所は,控訴人らの請求を棄却したので,当裁判所に対し控訴した。
当裁判所も,原審と同様に,控訴人らの請求は理由がないものと判断するその理由の要旨は次のとおりである。
  本件規程は,年金契約の内容となっている。
1) 本件の年金制度は,退職者に対する福祉の実現という目的の下に,被控訴人の退職者などの多数の加入者との間の反復,継続する契約関係が予定され,また,各加入者の年金額を平等かつ公平に決定するため,支給率,支給期間等が技術的な計算により算出されており,被控訴人において,多数の契約者一人一人から,各自の年金額の基礎となる支給率,支給期間の計算過程等を含む契約内容全てについて等しく理解を得ることは困難である。被控訴人がこのような性質を有する制度の運営者として,多数の反復,継続する契約関係と技術的な契約内容とを合理的,画一的に処理し,また,各加入者を平等かつ公平に取り扱うという目的のために,あらかじめ,私企業における福祉年金制度の規律として合理性を有する本件規程を定めて,各加入者との間の年金契約の内容を,本件規程によらしめることとしており,制度上,これが容認されていると解されるし,本件規程が本件の福祉年金制度の規律としての合理性も有していると認めることができる。
そして,控訴人らは,年金契約の申込みをするにあたり,いったん福祉年金受給申込書を持ち帰ってこれを読む機会が与えられていたのであり,そして,その申込書には,貴社の福祉年金規程を了承の上,福祉年金の受給を申し込みますとの文言が記載されていること等のことから,控訴人らは,本件規程が存在すること自体は認識し,しかも,被控訴人会社を退職するより前の時点において,本件規程の主要な内容についての説明を受けており,本件契約を締結するにあたり本件規程の詳細な内容を知ろうとすれば,各控訴人の勤務事業場等に問い合わせ,また,退職前説明会で本件規程の内容を知りたい旨の希望をすることにより,これを知ることは容易であったと認められるのであり,退職後においても,在職時に勤務していた事業場や被控訴人本社に問い合わせることにより,本件規程の内容を知ることは容易であったと認められる。
したがって,控訴人らは,本件規程の具体的内容につき知らなかったとしても,本件規程は,本件の年金契約の契約内容になっていると解される。
2) 本件改廃規定についても,本件規程の一部であり,本件の年金契約の契約内容になっていると解される。
この点につき,控訴人らは,本件改廃規定が控訴人らにとって一方的に不利益な規定であるから,これが本件契約の内容になるためには,本件契約の締結にあたり,被控訴人が控訴人らに対し,その条項を個別に取り上げてその趣旨を十分に説明することが不可欠であると主張する。
しかし,本件改廃規定は,控訴人ら福祉年金の既受給者にとって,不利益な内容を含むものの,本件の福祉制度の目的趣旨に照らせば,本件改廃規定によって変更できる事項にはおのずと限界があり,例えば,預け入れ原資の元本をカットするような条項を追加することは勿論,給付利率を一般的な利率水準以下に下げること,中途一時払いの条項を削除するような改定は,到底できるものではなく,被控訴人も,本件改定規程によるそのような変更ができる旨考えていなかったと認められるのである。そうすると,本件のように給付利率が変更される等された場合,契約者が,中途一時払いを請求して,他に有利な運用先を探す方法は残されているのであって,本件改廃規定は,退職者が本件制度に加入するかどうか意思決定をする際,その意思決定を左右するような,加入者に重大な損害や不利益を及ぼす可能性のある規定であるとも断定することができない。この点から考えても,本件改廃規定が,個別,具体的に控訴人らに開示説明されなかったとしても,本件改廃規定が本件の年金契約の内容となることの妨げとならないと解することができる。
  本件利率改定が本件改廃規定所定の要件を満たしている。
1) 市場金利の推移,貸出金利の推移,年金資産の運用利回りの推移等に照らし合わせれば,本件の給付利率は相当高利率になっていることや,バブル経済崩壊後の日本経済の長期低迷,被控訴人の属する電器製品業界において,中国を中心としてアジア諸国の台頭は著しく,日本国内における主要商品の単価を下落させる要因となり,その結果,被控訴人においても,高コスト体質に陥り,平成14年3月期の決算で赤字を計上し,雇用,賃金,退職金,年金等の各種制度につき見直して改革をする必要があること等に照らせば,被控訴人において,控訴人らを含む既受給者に対し,従来と同率の給付利率を維持しながら本件の福祉年金の給付を行うことが困難となるような経済情勢の変動があったと認めることができる。また,被控訴人やそのグループ会社との現役従業員に対して予定されている年金の受給額は,本件の福祉年金の既受給者との間で大きな格差が生じているのであるから,そのことからすると,社会保障制度についても,被控訴人らの現役従業員との関係で大幅な変動が生じていると認めるのが相当である。
2) なお,被控訴人は,本件改廃規定が規定する要件が認められれば,自由に本件規程を改定できる訳ではなく,本件利率改定内容の必要性,相当性及び労働組合や年金受給者の理解を求める努力をする等の手続の相当性が必要であると解せられる。
そして,市場の貸出金利の利率が大幅に低下していること,本件利率改定を前提としても,本件の福祉年金の既受給者と未受給の現役従業員との年金給付の格差が拡大していること,被控訴人の営業利益率等が低下していること,本件利率改定後の給付利率のうちでもっとも低い利率である年5.5%でも, なお,市中金利よりも相当程度高いといえることに照らせぱ,給付利率改定の必要性と相当性があると認められる。 (したがって,将来,市中金利が給付利率と同程度かこれより高くなった場合,給付利率も高く改訂されることが予想される。 )
本件利率改定に際して被控訴人がとった各種の手続及びこれらの手続により本件利率改定につき既受給者の94,6%の同意を得たことからすると,本件利率改定の手続が不相当であったとまでいうことはできない。
  本件改廃規定に基づく,本件利率の改定の効果が生じており,控訴人らの請求は理由がない。
大阪高等裁判所第1民事部
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