平成17年(ワ)第3707号 退職年金確認等請求事件
原告 安田孝夫ほか 被告 (株)東京放送ほか
平成19年1月31日
東京地方裁判所民事第19部合議係
審理の結果認められる可能性がある権利関係その他本件の諸事情、並びに本件訴訟の弁論期日(証拠調期日を含む)及び和解期日の経過を踏まえ、双方の合意による紛争の解決を図るために、以下の和解条項案(要旨)のとおり、和解案を提示します。
和 解 条 項 案(要旨)
1 被告東京放送は、原告ら及び選定者らに対し、分配金の額にその10%を加算した金員(分配金の額の10%の金額が50万円に満たない場合は50万円を加算した金員)を支払う。ただし、原告ら及び選定者らのうち、すでに分配金及び慰労金を受け取っているものに対しては、上記の加算した金員とすでに受け取っている分配金及び慰労金の合計額との差額を支払う。
2 被告東京放送は、原告ら及び選定者ら以外の年金受給者に対しても、前項と同様の支払いをするものとする。
3 被告東京放送は、原告ら及び選定者らに対して、1項の金員の他に、解決金として
500万円を支払う。
4 被告東京放送は、原告ら及び選定者らに対し、本件の適格年金一部終了に際して、年金受給権者の権利及び生活に対する配慮が十分でなかったことにより多大な負担、迷惑をかけたことを認め、これに遺憾の意を表する。
和 解 提 案 書(補充)
平成19年1月31日
東京地方裁判所民事第19部
和解条項案(要旨)の前提となる当裁判所の基本的な考えは、次のとおりです。
1 適格年金制度は、会社と退職者(年金受給者)との間の契約であり、一般的には、
当事者の一方が、解約(年金制度の廃止)をしたり、内容の変更(支払方法の変更)
をすることはできない。
2 ただし、本件退職年金規定31条は、被告東京放送(以下「被告」)が年金制度を一方的に終了させる場合があることを前提とした規定と解されるから、本件退職年金は、一定の場合に、被告が年金の内容を廃止・変更することができるというべきである。
3 しかし、同規定は、年金の廃止・変更をすることができる場合について規定していないので、どのような場合に被告が年金の廃止・変更をすることができるのかは、解釈によるほかない。
適格年金は、本来、自由に廃止・変更することはできないこと、本件退職年金規定31条は被告が経営の危機にあるときを前提にしている規定であると解されることに鑑みると、一方的な廃止・変更は、限定的な場合だけしか許されないと解するのが相当である。しかしながら、他方で、本件退職年金は退職金を一時に受領するよりかなり有利な内容となっていること、本件の退職金(すなわち年金)が給与の後払いの性格を有し、かつ、年金の支払いは被告の事業が存続することを前提としていることからすれば、年金支給は被告の現職の労働関係と切り離せない面があることなどの事情もあり、一方的な廃止・変更ができる場合を極端に限定するのも相当でない。
考え方としては、就業規則の不利益変更の法理が参考になるが、考慮すべき事項は、全く同一ではない。
4 本件では、退職金規定自体が、年金を廃止して現価により一時金給付とすることを認めているので、一時金給付とすること辞退は不利益でないといえる。そして、一時金給付を年金給付の場合と完全に経済的に同一の価値とすることは困難であるから、概ね同様の価値とみることができるのであれば、不利益は許容された範囲内ということができる。
このような前提で考えると、本件の支払方法変更は、年金給付部分が残っていること、慰労金の支給がされることも併せると、不利益は許された範囲と見ることは十分可能である。ただし、分配金(一時金)の給付により所得税が負担増となる点は問題がないと言いきれるか難しい。
他方、被告において、このような変更をしなければならない差し迫った必要性があったかどうかは、やや疑問が残るところである。
このように本件の判断は極めて微妙であり、どちらの結論もあり得るとしかいいようがないものである。
そうすると、紛争の適正な解決という観点からみると、分配金にさらに一定の金額を付加することによって不利益がより少なくなるのであれば、(上記の説明のとおり、加算をするまでもなく不利益はないという結論もあり得るのだから、不利益を完全にゼロにすることまでは要請されない)、それが、本件紛争の最も適正な解決方法ということができる。
5 そこで、まず、分配金に付加すべき加算金の額であるが、この点については、被告提案の和解案の考え方(平成18年12月15日付け上申書(3))は基本的に妥当性があると考えている。すなわち、年金支給が継続した場合の税金を控除した実質の受取額と同様の受領ができるだけの一時金の金額を算定し、これと分配金との差額を加算するという手法は妥当と考える。ただ、原告から指摘がある(平成18年12月27日付け上申書)ように、被告の計算において、@年金が支給された場合の税金を算定するに当たり社会保険等を控除していないこと、A分配金(清算一時金)と加算金の課税年度を同一にしていないことは、問題がないわけではない。
しかし、厳密に不利益をゼロとしなければならないわけでないことは前記のとおりであるし、原告の指摘によっても、社会保険等を控除しないことによる差額は、月額6000円程度であること、分配金と加算金が別年度となる受給者も多いことから、別年度とすることが全く不当とまではいえないことからすれば、被告提案が完全に正当であるとまではいえないとしても、若干の修正をすることにより、不利益は許容された範囲内であるということが十分にいえるようになると考える。
そこで、被告提案の8%に上乗せした10%加算を和解案とした。
6 和解案では、分配金の加算金とは別に解決金を支払うべきこととした。これは、訴訟を提起した原告ら及び選定者に対して、訴訟提起をしたことによる費用のいくらかでも被告側に負担させるのが相当であるという考えに基づくものである。判決になった場合を考えると、被告側に負担させるのが相当な費用は、判決でいうところの訴訟費用が妥当(印紙額は179万3000円)ということになるが、本件においては、諸般の事情を考慮して、これを500万円とした。
7 遺憾の意の表明としては、原告らや選定者らの権利等に配慮を欠き、負担・迷惑をかけた事実を認めて遺憾の意を表明することで原告らの求める内容は盛り込まれていると考える。方式は、和解による解決であることから、和解調書の中に盛り込む方法が妥当と考える。